WellTOKK vol.032 2024 Winter

「健康寿命の延びる沿線」の実現を目指し、沿線にお住まいの皆様の健康づくりを応援する健康情報誌です。2024 Winter vol.32(2024年冬号)では、健康のために甘いものを我慢しているけどたまには食べたい!甘いものは好きだけど健康も気になる。そんな時にぴったりのヘルシーなおやつ選びのポイントをご紹介します。


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生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員教授。分子生物学研究のかたわら、“生命とは何か”をわかりやすく解説した一般書を次々と発表。代表作にベストセラー『生物と無生物のあいだ』、動的平衡』シリーズ、『福岡伸一、西田哲学を読む』など。大のフェルメールファンとしても知られ『フェルメール光の王国』がある。近作に、生命海流GALAPAGOS』、冒険小説『ドリトル先生ガラパゴスを救う』など。読書人のためのセミナー「福岡伸一知恵の学校」主催。2025年の大阪・関西万博で「いのちを知る」テーマ事業を担当。〈公式サイト〉https://www.fukuokashinichi.com〈X(旧Twitter)〉@fukuoka_hakase〈note〉https://note.com/fukuokashinichi〈YouTube〉https://www.youtube.com/c/fukuokashinichi福岡伸一ふくおかしんいちほんろうおうか新型コロナウイルス感染症の発生により、社会状況や生活環境は随分変化しました。健康や自分の身体に対する意識が高まったという方も多いでしょう。生物学者・福岡伸一先生によると、生命は「絶えず移り変わる流れの中にある」と言います。「生命とは何か」――。福岡ハカセと一緒に考えてみましょう。ロゴス(言語)vsピュシス(自然)生物の世界のおきては厳しい。魚や昆虫は、何千個、何万個もの卵を生み出すが、その大半は、他の生物の餌食となるか、波や風に流されるまま消え去る。なんとか卵からかえっても、少しでも群れに後れを取ればたちまち捕食者に喰われてしまう。運良く生き残ったわずかな個体だけが成長し、ようやく子孫を生む。それが終わるとたちまち息が絶える。これが自然のおきて。つまり、産めよ、増やせよ、地に満ちよ、という命令である。種の保存と言い換えてもよい。この大目的の前では、個々の生物の命は、種を存続するための手段でしかない。この厳然たる自然のおきてに対して、人間だけが反旗を翻した。種の保存よりも、個の生命の方が大切だ。個が尊重され、個の幸せに価値がある。個は必ずしも種の保存のために働かなくてよい。個は自然のおきてから自由に生きていい。そこに罪も罰もない。そのことを発見したのが人間という生物なのである。なぜ、こんなことが発見できたのか。人間だけが高度な知性を持ち得たからである。そして、知性の本体が言語だからである。言語は、コミュニケーションの道具であると同時に、世界を概念化する最強の道具である。福岡ハカセは、言語のことをロゴス(論理)と呼んでいる。ロゴスの力が、種と個の関係を発見した。その瞬間、目に見えなかった自然のおきては相対化された。個の生命こそが尊重されるべきで、自然の命令から自由になれることを発見した。ロゴスに対して、ありのままの自然のことをピュシスと呼ぶ。人間以外の生物はピュシスに従って生まれ、ピュシスに従って死ぬ。人間だけが、ロゴスの力によって、ピュシスを分断・文節化し、環境を制御し、都市、文明、経済、制度を作り出した。そして個体の生命の尊重、つまり一人ひとりの基本的人権を生み出した。このとき以来、人間は、他の生物とたもとを分かち、特別な生物足り得るようになった。一方、人間はロゴスによって自縄自縛の状態にある。自分とは何かに悩み、自己実現に苦しみ、富の多寡に翻弄される。過去に拘泥するのも、未来に不安を持つのも、ロゴスが、過去と未来という概念を作ったからである。それだけではない。本来、個は種の平等な一員だった。私たち人間は誰もが、すべてホモ・サピエンスという単一の種に属している。ところがロゴスが、個と種のあいだに人工的な概念を作り出した。民族、人種、宗教、国家などである。ここにも分断と紛争が生じた。ロゴスは生物としての人間を自然のおきてから自由にしてくれた。その代わり、人間はロゴスに縛られている。幸福でありつつ、不幸である存在。自由を謳歌しつつ、不自由極まりない生物。ロゴスとピュシスの間を永久に揺れ続ける生物。それが人間なのである。10|WellTOKK2024Winter


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