>> P.12
街にはそれぞれの匂いがある。港町には磯の香りがあり、北海道の草原ではひだまりや干し草の香りがする。記憶は、香りによって呼び起こされることが多い。貝類の焼けた匂いを感じると、小さい頃の海辺の風景が突如浮かんでくることもある。阪神間ではエトランジェ(※1)という匂いを思い浮かべる。阪神間では西洋文化は早い時期から根付いていた。日本初のゴルフコースは六甲山。またピッツアも神戸で上陸し、しばらく時を経て東京に移っていった。そういった意味で、阪神間はインキュベーター(※2)の役割を果たしていると思う。海外から流入してきたモノやコトを一旦受け入れ、そこで独自のスタイルとして次の展開を考える。料理も同様である。古いホテルや海外航路で腕を磨いたシェフ(当時はコック)が阪神間でこの土地に根付いた趣きに作りかえるのだ。それが長い歳月を経て、進化を繰り返し、独特の匂いを醸し出すようになってきた。だから阪神間の匂いはエトランジェではあるが、いわゆる西洋かぶれというものとは一線を画すのだ。それは古くから阪神間に息づいている文化や伝統と融合したところにある匂いなのである。これは日本全国旅をしても、横浜や長崎という海外との交流で街を形成してきたところとの匂いとも異なるのだ。それが阪神間の素敵なところであり、どこか日本生まれの洋食に繋がってゆくのかもしれない。阪神間モダニズムとは?「阪神間モダニズム」は、世界の食文化を“ゆりかご”で育てる。《プロフィール》1952年10月3日大阪生まれ。フードコラムニスト。株式会社ジオード代表取締役。関西の食雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。「関西の食ならこの男に聞け」と評判高く、テレビ、雑誌、新聞等のメディアにて発言も多い。国内を旅することも多く、各地の生産者たちとのネットワークも拡がっている。食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぐ役割を果たす存在。また大阪府や大阪市、京都府、京都市、奈良県など、行政が日本の食について海外に向け発信するシーンへの登場も多数ある。また、日本のあらゆるジャンルの料理人が設立した一般社団法人全日本・食学会では副理事長を勤める。2002年日本ソムリエ協会より名誉ソムリエの称号を授与される。著書に、『門上武司の僕を呼ぶ料理店』(クリエテ関西)のほか、『スローフードな宿』スローフードな宿2』木楽舎)、『京料理、おあがりやす』廣済堂出版)等。発行元:制作:神戸新聞事業社阪神間連携ブランド発信協議会(兵庫県阪神南県民センター、西宮市、芦屋市、阪神電気鉄道株式会社)※掲載情報は2023年9月1日現在のものです。※本誌掲載金額は税込です。お店によってはテイクアウト時に価格が変更となる場合があります。※GW、お盆、年末年始のお休みについては各所にお問合せください。※本誌掲載の記事、写真などの無断転載を禁じます。HPはこちらInstagram門上武司「あまから手帖」編集顧問かどかみたけし(※1)エトランジェ:見知らぬ人。外国からの旅行者。異邦人。(※2)インキュベーター:乳児を育てる保育器の意。独自の創造性に富んだ技術。